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さくら野歌壇

万葉恋歌

中西進博士の文庫本『万葉集』(講談社文庫)を読む

                     上野亮介



 第56葉 (巻14・3457)

 うちさす 宮のわがは やまとの ひざくごとに を忘らすな 

 
みやこに行く夫を見送る妻の歌です。日がさし輝く宮にのぼるわが背は、大和やまとの女の膝を枕にすることはあってもよいが、その度に、私をお忘れになるな。(中西進博士の訳)

 えらく寛容な妻です。しかし、ここで喜ぶ男はあまい。「わかった、大和の女と寝るときも、おまえを忘れたりはしない」などと答えてはならないのです。そんなことを口にしたら、妻の顔色が変わるに決まっている。彼女はちょっと言ってみただけなのです。夫の反応を見るために。東国の女は夫の婚外活動に寛容であるとの誤った認識を、この歌から引き出してはなりません。厳しさは西も東も変わらない。
 この歌、とても妻の言葉とは思えないと、遊女の作ではないかとする説もあります。



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