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万葉恋歌
中西進博士の文庫本『万葉集』(講談社文庫)を読む
上野亮介
第58葉 (巻14・3388)
筑
つく
波
ば
嶺
ね
の
嶺
ね
ろに
霞
かすみ
居
ゐ
過ぎかてに
息
いき
づく君を
率
ゐ
寝
ね
てやらさね
名峰・筑波山を擁する
常陸
ひたち
国の歌です。
筑波山の頂に霞がかかって動かないように、通り過ぎかねて溜息をついているあの方を、つれて来て寝ておやりなさいな。(中西進博士訳)
先輩女子社員が後輩に「あそこでウロウロしている男の子はあなたに気があるみたいだから、させてあげなさい」と勧めているような感じ。万葉の里には、そこまで世話を焼くお
局
つぼね
さまがいたのでしょうか。そうではなくて、女同士の
戯
たわむ
れの歌だと思いたい。
歌われたときの状況はよくわからないのですが、歌としての出来映えがいいですね。立ち去ろうとしない男を筑波山の霞に喩えた表現は実にうまいし、恋情を抱いた男の様子を「息づく君」と描写しているところなども秀逸です。
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