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万葉恋歌
中西進博士の文庫本『万葉集』(講談社文庫)を読む
上野亮介
第61葉 (巻14・3353)
あらたまの
伎
き
倍
へ
の林に
汝
な
を立てて
行
ゆ
きかつましじ
寝
い
を
先
さき
立
だ
たね
あらたまの伎倍の林におまえを立たせたまま旅立つなんてとてもできない。行く前に一緒に寝かせてよ。
「あらたま」は
遠江
とおとうみ
国(今の静岡県西部)の郡名、「伎倍」はそこの地名だそうです。「伎倍の林」とは前節の「欲良の山辺」によく似ています。茂み付近に男女が立っている。前節の歌は忍び逢い。この歌は旅立ちの見送りでしょうか。いずれにせよ場所が似ていて、しかもそこで寝ようというのですから、前歌同様、枝や葉っぱを払うことになりはしまいか。なにやら東国の男はこんなことばかりやってますね。
【古語散策】
あらたまの
伎
き
倍
へ
の林に
汝
な
を立てて
行
ゆ
きかつましじ
寝
い
を
先
さき
立
だ
たね
「行き・かつ・ましじ」の「かつ」は「できる」、「ましじ」はその否定。「行くことができない」という意味です。その語調は相当強く、「決して行けない」という感じ。というのは、「ましじ」は「まじ」の古い形で、否定の調子が非常に強いのです。この「まじ」という古語、今でも「許す
まじ
」とか「ある
まじき
行為」という風に使われます。
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