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万葉恋歌
中西進博士の文庫本『万葉集』(講談社文庫)を読む
上野亮介
第63葉 (巻20・4345)
吾妹子
わぎめこ
と 二人わが見し うち
寄
え
する
駿河
するが
の
嶺
ね
らは
恋
くふ
しくめあるか
妻と二人で見た波寄せる駿河の海、そこにそびえる山が恋しい。
駿河国の男の歌です。これを当時の標準語で歌うとすれば、
吾妹子
わぎもこ
と 二人わが見し うち
寄
よ
する 駿河の
嶺
みね
は
恋
こひ
しくもあるか
「駿河の嶺」は、もちろん富士山のことでしょう。単に美しい海と名峰が恋しいのではありません。その風景は、愛する妻とともにあった。そこに自分もいた。その幸せが恋しいのです。男は今、駿河にはいません。駿河から遠く離れた
難波
なにわ
(現在の大阪)にいる。ここから船で、駿河とは逆の方向へ、遙かな九州へと向かいます。これは
防人
さきもり
の歌、防人の望郷歌です。
作者の名は、
春日部
かすかべの
麿
まろ
。
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