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万葉恋歌

中西進博士の文庫本『万葉集』(講談社文庫)を読む

                     上野亮介



 第68葉 (巻14・3568)

 おくれて 恋ひば苦しも 朝狩あさがりの 君が弓にも ならましものを 

 夫を防人に出す妻の歌です。「
おくて」の「おくる」は「あとに残る」こと。歌意は、後に居残ってあなたのこと思い続けるのは苦しい、あなたの朝狩りの、その弓になりたい…

 「弓になりたい」というのは、一緒に行きたいという意味です。彼は愛用の弓を持って行くからです。防人たちは自前の武器を持参させられました。彼の場合、出発の朝、いつものように朝狩りに使う弓を背負っていました。しかし、行き先は、いつもの狩猟の山野ではありません。東国の者にとっては場所も定かでない遙か彼方の九州です。見送る妻の「あなたの弓になりたい」という言葉は、修辞を超えて彼女の本心であったでしょう。



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