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万葉恋歌
中西進博士の文庫本『万葉集』(講談社文庫)を読む
上野亮介
第69葉 (巻20・4425)
防人
さきもり
に
行
ゆ
くは
誰
た
が
背
せ
と 問ふ人を 見るが
羨
とも
しさ 物
思
もひ
もせず
「防人に行くのは誰の旦那さん?」と問う人を見るのがうらやましい。あの人たちは悲しみの物思いをすることもない。
これも妻の歌です。村里の女たちの風景が、この歌から透けて見えます。女たちが「誰の旦那さんが防人に行くの?」と聞くのは、別に興味本位ではありません。彼女たちにしてみれば大問題なのですから。しかし、その女たちは、自分の夫が指名されなかったから、そんな風に問うことができる。作者は、そのことを
羨
うらや
ましがっています。愛する夫を手放す苦しさ、夫の旅路への不安、残される自分のこと、そういう物思いは、あの人たちにはないのだなあと。人の無神経を責めているのではありません。その女たちの気持ちが彼女にはよくわかる。ただただ羨ましいのです。
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