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さくら野歌壇

万葉恋歌

中西進博士の文庫本『万葉集』(講談社文庫)を読む

                     上野亮介



 第70葉 (巻20・4404)

 難波なにはを きてまでと 吾妹子わぎもこが けしひも 絶えにけるかも

 
上野かみつけ国の男の歌です。彼の妻は「難波なにわに行って帰って来るまで」と言って紐を結んでくれたのですが、その紐が擦り切れてしまった。この先、難波から築紫つくしへ向けて、自分はまだ旅を続けなければならないのか。その何ともやりきれない気分が感じられます。彼の妻は、そして彼自身も、難波に行って帰って来ると思い込んでいたようです。築紫へ行くとは知らなかった。あるいは築紫がどこにあるか知らなかった。防人さきもり徴発の官人が「行き先は難波である」とか何とか、適当なことを言ったのでしょう。「難波というところまでの行き帰り、あなたが無事でありますように」と紐を結んだ妻の姿が哀れでなりません。
 作者の名は、
上毛野かみつけのの牛甘うしかい



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