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さくら野歌壇

万葉恋歌

中西進博士の文庫本『万葉集』(講談社文庫)を読む

                     上野亮介



 第86葉 (巻7・1285)

 春日はるひすら 田に立ちつかる 君はかなしも 若草の 妻なき君が 田に立ちつか

 五七七・五七七の旋頭歌せどうかです。
 春の好日なのに田んぼに立って働き疲れている君は悲しいな、若草のような妻もいない君が、田んぼで立ち働いて疲れているよ。

 独身男をおちょくった歌です。
 でも、春のいい日に田んぼで働いて何が悪いのか。
 この歌を歌った者たちは、そんな日は遊ぶに限ると思っているらしい。
 何をして遊ぶのか。
 女の子にちょっかいを出しにいく。
 そういう連中に組みせず黙々と働くマジメ男に対して、「だから妻も得られないんだよ」「やーい、田んぼで疲れるねー」と
はやし立てる。
 これはいけません。けしからん歌です。
 でも、おもしろい歌ですね。味があります。
 もしこれが女の歌だとすると、味わいはさらに深まる。「私に目を向けて!」という感じ。



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