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万葉恋歌
中西進博士の文庫本『万葉集』(講談社文庫)を読む
上野亮介
第92葉 (巻11・2520)
刈薦
かりこも
の
一重
ひとへ
を敷きて さ
寝
ぬ
れども 君とし
寝
ぬ
れば
寒
さむ
けくもなし
ムシロを一枚だけ敷いて寝ても、あなたと一緒に寝れば寒くなんかないわ。
この歌、きっと春か秋のことを言っているのでしょう。ムシロ一枚では、いかになんでも冬は寒い。夏ならムシロ一枚でも暑い。
などと、明日香や奈良の気象にもとづいて、そのときの状況を詮索しても、あまり意味はありません。この種の解析をもって詩歌の鑑賞に代えるのはその方面の専門家にまかせて、ここは作者の心に思いを馳せましょう。すなおで一途なその心に。その心がそのまま歌になっています。歌としてもわかりやすく、まっすぐな歌です。彼女の気持ち、よくわかりますね。
「刈薦の一重」(ムシロ一枚)は、この恋人たちの暮らしぶりを表しているのかもしれません。あるいは高貴な女人の口から出た喩え話でしょうか。どちらでもかまいません。「温かいあなたの体温があればそれでいい」と思う心がわかればそれでよい。
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