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万葉恋歌
中西進博士の文庫本『万葉集』(講談社文庫)を読む
上野亮介
第95葉 (巻4・694)
恋草
こひくさ
を
力
ちから
車
ぐるま
に
七
なな
車
くるま
積みて恋ふらく わが心から
恋草を大きな荷車に七台も積んで恋するのは、私の心のせい。
広河
ひろかわの
女王
おおきみ
の歌です。「恋草を力車に七車」なんて、発想がおもしろいですね。こんな風に恋心の大きさ重さを表現するとは。
「女王」と呼ばれる人がこんな発想をするというのも、おもしろい。当時は高貴な女人であっても、草をドッサリ積んだ荷車が引かれてゆく光景を日常目にしていたのでしょう。
それにしても機知に富んだ人です。恋の相手として手応えがあったはず。惜しむらくは(この「惜しむらく」も「恋ふらく」と同じ用法)、「わが心から」という結句の力が少し弱いとの声がある。力車を押し通すが如く、あっと驚く文句とか、ちょっとひねって微笑みを誘う言葉で終わらせた方がおもしろいのではないかと。でも、この歌は戯歌ではなく、恋の苦しさをまじめに歌った女歌です。この終わらせ方でよいのです。こんなに苦しいのも全部自分のせいなのだ、あの人を慕ってしまう自分の心が原因なのだと嘆いている。秀歌です。
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