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万葉恋歌
中西進博士の文庫本『万葉集』(講談社文庫)を読む
上野亮介
第97葉(巻11・2382)
うち日さす
宮道
みやぢ
を人は 満ち
行
ゆ
けど わが思ふ君は ただ一人のみ
陽が射す宮殿への道を人が満ちあふれて通るけれど、私がお慕いするお方はただ一人だけ。
人波の中、たった一人だけを目で探す。そんな自分をすなおに詠んだ恋の歌です。
作者は宮殿の女官でしょうか。宮殿に出勤する男たちの群れを見ているのでしょうか。
でも、どんな場面でも通用する歌です。お祭りとか催し事の人混みでもかまいません。その人混みの中に彼女自身も混ざっているのかもしれない。その雑踏の中に、会いたい人が一人いる。視線をあちこちに向け、胸をドキドキさせ、表面上はあくまでさりげなく、一所懸命探す。これは現代も同じです。まことにわかりやすいこの心、それは千古不変の恋心。それが自然に和歌という韻律詩になってしまう日本。「恋歌の国」と言うべきか。
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